親の介護をめぐって兄弟姉妹と不仲に! どうやって修復すればいい?

~介護によって起きた子どもたちのトラブル その原因は何なのか?~

はじめに

2020年7月31日に厚生労働省から「2019年簡易生命表」が公表されました。平均寿命が男性81.41歳、女性87.45歳と、引き続き過去最高を更新しています。
健康で生きられる期間である健康寿命は2016年時点のものが公表されており、2019年分を試算した結果では、男性が72.38年、女性が75.38年で男性が0.54年、女性が0.59年延びています。とはいえ、70歳代になると何らかの健康の問題により、要支援や要介護状態になる人が増えています。
高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」と定義されますが、日本が高齢化社会に突入したのが1970年のことです。その後、わずか24年で高齢化率が14%を超え、2007年には高齢化率が21%を超える「超高齢社会」となりました。超高齢社会に突入したわが国において、介護の問題は避けては通れません。

介護の担い手となるのは子どもたち

さて、介護の担い手となるのはやはり子どもです。子どもたちの心理として、親にはまだまだ元気でいてほしいという願望があるため、親がしだいに弱って行ったり認知症の症状が出始めたりしても、現実を直視できない傾向にあります。
そのため、親の通院先や入院先の医療機関や地域包括支援センターなどから突然連絡が来て、介護の始まりを突きつけられる人も多いのが現状です。
つまり、親自身は加齢にともない、要支援・要介護が必要な状態に段階的に近づいているのですが、子どもにしてみれば「突然介護が始まった」と感じて慌ててしまうのです。
子どもが複数いる場合、介護は兄弟姉妹で分担して行うのが一般的です。ただし、介護を要する高齢者の子世代は現在40~60歳代で、多くは仕事で責任のあるポジションについていて多忙なうえ、まだ住宅ローンや教育ローンの返済中など、経済的事情も加わってきます。
そのため「余裕のない介護」「しぶしぶ引き受ける介護」「できるなら他の兄弟姉妹にやってもらいたい介護」「逃げ腰の介護」になりがちです。結果、「介護の押し付け合い」が始まったり介護をめぐる不公平感が噴出したりして、仲のよかった兄弟姉妹にも亀裂が入るようになります。
この記事では、親の介護をめぐり兄弟姉妹の関係が悪化する原因と、その解決法を、実例をもとに解説してゆくことにします。

事例1|兄弟姉妹間での取り決めを守れなかった弟のケース

Aさんは4人兄弟姉妹の長女です。3人の姉妹の末っ子に弟がいます。4人はそれぞれ仕事と家庭をもち、忙しく生活をしていました。父親が若くして他界したため、85歳の母親は実家の広い家で一人暮らしをしています。その母の異変を最初に感じたのは長女のAさんで、「認知症ではないか」という症状がみられました。すぐに医師の診断を受けるとともに要介護申請を出し、要介護認定を受けました。
4人の兄弟姉妹が実家と同じ市内に住んでいたため、4人で協議し「施設には入れずに、3カ月ずつ4人で交代して母親を自宅に預かり面倒をみる」という取り決めを行いました。
3人の姉たちは母親を3カ月間ずつ引き取り、難なく面倒をみることができました。ところが末っ子の弟は、自分の受け持ちになって数日もしないうちに、母親をボストンバッグひとつとともに長女の家に突然連れて来て「母親の面倒をみられない」と言い出します。聞けば「このままではおふくろを殺してしまいかねない」と、非常に深刻な状況でした。
3人の姉たちは、4人で合意したことを守れない末の弟と、弟の言いなりになっているその妻に対して怒りしかわきません。「末っ子に男の子が生まれて、母親から一番かわいがってもらったはずなのに」という思いで、怒り心頭です。

トラブルの原因

男性は女性に比べて現実を受け入れにくい性質があることに加え、末の弟にとっての母親は、いつまでも尊敬すべき理想の女性でした。凛とした職業婦人であった母親は弟にとって自慢の母親だったのです。その母親が認知症になり、食べ物をこぼしたり失禁したり奇声を発したり徘徊しています。その姿を、弟は直視できなかったのです。
ある意味、当初の約束を反故にして母親を姉のところに連れてきたのは正しい選択です。介護ストレスや介護ノイローゼで親に手をかけたという、悲惨な事件が後を絶ちません。そうなってからでは遅いのです。

解決策

姉たちもやがて弟の心情を理解し、当番制は3人の姉たちで担当することにしました。親の介護に関して兄弟姉妹で取り決めを行ったとしても、イレギュラーなことは起こりえるのです。臨機応変に、柔軟にその都度対応することが必要です。関係者全員が、同じレベルのメンタルの強さを持ち合わせているとは限りません。じゅうぶんな話し合いのもと、お互いを理解することが重要です。

事例2|専業主婦の姉に甘えすぎた妹のケース

Bさんは二人姉妹の二女です。実家から約40㎞の場所に家族4人で住み、フルタイムで仕事をしていました。父親は他界し、83歳の母親は一人暮らしですがまだまだ元気で、同じ町内には姉も住んでいたため、実家には1カ月に1度日帰りで訪問する程度でした。ところが、母親が家で転倒し大腿骨骨折のため入院して以来、Bさんの生活も一変することになります。
Bさんの実家は古い家屋で段差があり、手すりなども設置されていません。まだまだ足腰は大丈夫と思っていた母親が家のなかで転倒し、姉が訪問して発見するまで動けずに家のなかにいたそうです。実際、転倒事故が多いのは住み慣れたはずの家のなかです。子世代はそのことを心にとめておかなくてはいけません。
さて、当初Bさんの姉はBさんに「あなたは仕事もあるし、お母さんのことは私がみておくから大丈夫よ」と言っていました。Bさんにとっても、近くに専業主婦である姉が住んでいることで安心し、いわば「お任せ」状態になっていました。Bさん姉妹の母親は退院後、週に3回リハビリに通院することになり、その送迎も姉が担当することになりました。
ところがしばらくしたある日、姉から強烈なメールが届きます。「あなたは仕事、仕事と言って母親のことは何もしようとしない。何もかも私に押し付けるのはやめて!」。姉は明らかに怒っています。Bさんにしてみれば「私に任せておいてと言ったはずではなかったのか、どういうこと?」と理解ができません。
しかも姉が実家に行くたびに母親から小遣いをもらっているのを知っていましたし、今回の母親の通院を理由に新車まで買ってもらっているのです。「母親の面倒をみるかわりにお金を出してもらっているじゃないの」と、もやもやした気持ちでいっぱいになりました。お互い不信感を募らせた二人は、とうとう激しい口論に発展。

トラブルの原因

まず、元気だった母親が転倒による大腿骨骨折というけがが原因で、突然要介護状態になったことが発端です。いわば、娘たちにとって何の準備もないまま介護が始まったわけです。このような事例は非常に多くみられます。
さらに、母親の介護に関して姉妹で話し合いをもつこともなく、姉は「私は仕事をしていないし実家も近いから任せておいて」、妹は「私はフルタイムで仕事をしているし姉がそう言うのだから頼もう」と安易に考えてしまったことからトラブルに発展しました。
姉は専業主婦ではあっても、町内会の役員やボランティア活動などで多忙、自分自身もちょうど更年期にあたる年齢で体調不良もありました。そのような事情を妹に伝えずに「私に任せて」と言ってしまった手前、長期化する母親の介護がしだいに負担になってきたことを、口に出せずにいたのです。

解決策

Bさんは突然の姉の怒りに接し、確かに自分は無意識にせよ二言目には「仕事、仕事」と口にしていたことに気づきました。ある意味、仕事を介護逃れの免罪符のようにしてきたことを自身で認めたわけです。そこで、Bさんは定期的に母親を自分の家に引き取り、リハビリの通院には職場の理解を得て有休を使い、その間姉には休んでもらうことにしました。

事例3|何もかも自分で抱え込もうとした姉のケース

Cさんは二人姉妹の長女です。実家には高齢の両親が二人で暮らしていました。Cさんは実家から車で1時間程度のところに、妹は新幹線を利用しないと来られない地に住んでいたため、実家に行く頻度はCさんのほうが多いのは自然なことでした。
両親は80歳を超え、デイサービスに通ったりヘルパーを頼んだり、上手に介護サービスを利用して生活していました。そこに突然、母親からCさんに「お父さんが高熱を出して入院した」という電話が入ります。
母親は「たいしたことじゃないから来なくていい」と電話口で言いますので、とりあえずは自宅で待機することにしました。すると病棟の師長さんから電話が入り「娘さんにお話があるのですぐに来てください」とのこと。慌てて行ってみると、母親が語る「たいしたことはない状態」どころか、父親は以前の生活に戻ることが難しいほど深刻な病状でした。すぐにケアマネジャーの選定、要支援から要介護への区分変更の申請を出し、父親は要介護5の認定がおりました。退院後は本人と母の希望もあり、在宅介護を行うことになりました。
Cさん姉妹は二人とも、仕事をしています。Cさんが妹に「お互い仕事を休んで交代で実家に行くようにしよう」と持ち掛けたところ、「私の職場は、それは無理」と言われました。それなら自分が何とかしなくてはと考えたCさんは、職場に相談。職場の理解のもと、月~水曜日まで自宅から仕事に通い、金~日曜日まで実家に滞在するという二重生活を開始しました。
1年間は、順調に仕事と通い介護の両立ができていました。ところが、2年目に入るころからCさんに異変が生じます。仕事のミスが増え、眠れず食べられず、車の接触事故を起こすなど、明らかにCさんらしくありません。わけもなく涙がでて、過度の飲酒もみられました。見かねた友人の勧めで心療内科を受診し「うつ病」と診断されることになります。
妹も定期的に実家に通って来てはいましたが、どちらかというと「姉にお任せ」スタイルで、姉の相談に乗ったり愚痴を聞いたりすることもなく、重要な決断に関与しようとしません。そのような非協力的に見える妹に対して、「妹は昔からそうだった。なんでも私に押し付けてきた」「もう信用しないし、何も期待もしない」と心を閉ざし、一線をおくようになります。そして、自分の不調を打ち明けることもありませんでした。

トラブルの原因

もともとCさんは社交的で交渉術にも長け、今回の父親の入院、退院後の介護についても、主治医、師長、ケアマネジャー、介護サービス事業所などと一家の中心となり積極的に話を進め、両親や妹からは頼りになる存在でした。
かたや、妹はこつこつ行う裏方的仕事が得意なタイプです。姉は妹をいわば「無能扱い」して自分ひとりで何もかもを決め、素直に「こんな部分を手伝ってほしい」「助けてほしい」と言えませんでした。妹の潜在的な力をスポイルしてきたのは他でもない姉のCさんだったのですが、そのことに気づくすべもありません。

解決策

Cさんはうつ病の治療を開始し、具体的に「こんなことで困っているのでこうしてほしい」と妹に頼むことで、妹も動きやすく協力的になりました。妹はもともと自分も介護にかかわろうという思いはじゅうぶんにあったのですが、姉がすっかり中心人物となっているため、出番がないような気持ちになっていたのです。
姉は妹に対して「非協力的」、妹は姉に対して「どうせ私はあてにされていない」という思いを抱いていたため、ぎくしゃくしましたが、話し合いの時間を多くもつこと、お互い分担してできることを協力しようと改めて合意したことで、二人の関係も好転してゆきました。

介護をめぐる兄弟姉妹間の関係を良好に保つヒント

じゅうぶんな話し合いをもつ

身内なのだから、言わなくてもわかってくれるはず、察してくれるはず、という考えは捨てましょう。それは単なる甘えか幻想です。「思いは具体的に口に出さないと伝わらない」と心得ましょう。また身内だけに遠慮のない言葉になりがちですが、感情的になったり攻撃的になったりせず、大人の対応をとりましょう。

お互いの特性、得意不得意を理解して役割分担を決める

兄弟姉妹でも、全員性格は異なりますし、適材適所というものがあります。自分ができるのだから、他の兄弟姉妹だってできて当たり前と考えることはやめましょう。

公平性を保つ配慮をする

兄弟姉妹間のトラブルのきっかけに、介護にまつわる「不公平感」が根底にあります。時間や労力や金銭を多く割いている人は、「なんで私だけが」という思いに陥りやすくなります。現実的には、住んでいる場所や職業、家族構成により、介護にかかわる時間、労力、金銭をまったく均等にすることは不可能です。
しかし、誰か一人に負担が集中しているとわかったら、他のメンバーは「困っていることがあれば言ってほしい」「自分に代われることないか」などの声掛けをすることで、関係者全員がかかわっているという安心感を与えることができます。もちろん言葉だけでなく、実践することが重要です。

介護サービスを積極的に利用する

親の介護にあたり、公的介護サービスを利用することは重要です。申請者の心身の状況に応じて、要支援1、2もしくは要介護1、2、3、4、5の認定を受けたら積極的に認定区分に応じたサービスを利用しましょう。
介護において重要なのは「他人の力を頼る」ことです。身内だけで何もかも解決しようとすると、疲弊してやがては兄弟姉妹間のトラブルに発展しかねません。

在宅型サービス(自宅に来てもらう)

 訪問介護・・・ヘルパーが自宅に来て排せつ・食事・着替え・入浴などの介護、掃除洗濯などの生活援助を行う
 訪問看護・・・看護師が自宅に来て、病状の観察や看護、清しき、排せつ支援を行う
 訪問リハビリ・・・理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が自宅に来てリハビリを行う
 訪問入浴・・・専用の浴槽を持ち込み入浴サービスを行う

通所型サービス(施設に通う)

 デイサービス・・・日中に自宅から日帰りで介護サービスを提供する施設に通う
 デイケア・・・日中に自宅から日帰りでリハビリを提供する老健に通う
 認知症デイサービス・・・認知症の人の受け入れ態勢があるデイサービスに通う

滞在型サービス(泊まる)

 ショートステイ・・・1日~1週間程度の期間、一時的に泊まれる介護施設を利用

介護サービスを利用することのメリット

  1. 介護する家族の負担軽減
    大きなメリットとして、介護者の負担軽減があげられます。要介護者である親がデイサービスに行っている間、介護する子どもたちは休息したり買い物や外食に行ったり、自由な時間を得ることができます。
    短時間でも、要介護者と距離をとることは、余裕のある介護につながります。ショートステイを利用できれば、その間さらに多くの休息や自由時間がとれることになります。
  2. 介護される親の負担軽減
    どんなに高齢になっても、親にもプライドがあります。排せつや入浴の世話を子どもにしてもらうことに、抵抗を感じる親も少なくありません。特に異性の子に対しては強く感じる傾向にあります。
    ヘルパーや看護師は介護や看護のプロです。子に身体介助をされる恥ずかしさや屈辱などを感じることはありません。また、プロの仕事は手際がよいため、苦痛や不快感もほとんどありません。

まとめ

親の介護をめぐり、兄弟姉妹間でトラブルに発展した例をご紹介しました。親の介護は一生に一度のことで、しかもいつか必ず終わりがやってきます。介護は嫌なもの、つらいものとせず、親を看取ったあとに「介護ができてよかった」と心から思えるような介護をしてゆきたいものです。
頼れるものはすべて利用し、一人で抱え込まずに、介護や看護の専門家も含めて複数人でかかわることが重要です。