知っておきたい長生きのための食生活について

~長生きにつながる日々の食生活で大切なことは?~

知っておきたい長生きのための食生活について

はじめに

平均寿命が年々伸びているわが国では、要介護にならずに自立した生活を送れる「健康寿命」をいかに長くしていくかが、大きな課題となっています。だれしも健康で長生きをしたいと望みますが、実際には70代なかばを過ぎたころから要介護状態になる人が急速に増えています。
高齢者人口の増加とともに、介護が必要になっても十分な介護が受けられない介護難民の問題も発生し、国もさまざまな政策を打ち出していますが、まずはひとりひとりが健康に対する意識を高く持つことが重要です。
健康維持に必要なのは適切な「食事」「運動」「睡眠」です。この記事では、特に食事について、シニア世代以降に健康寿命を伸ばすために重要と思われるポイントを、いくつかとりあげてゆきます。

バランスのよい食事

書籍やインターネットで「バランスのよい食事を心がけましょう」という表現をよくみかけます。では、バランスのよい食事とは、具体的にどのようなものなのでしょう。
まず、生きていくうえでのエネルギー源になる栄養素として、「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」があり、これらを「エネルギー産生栄養素」といいます。以前は3大栄養素といわれていたものです。さらに、「ビタミン」「ミネラル」を加えた5種類が、体を維持してゆくために必要とされる栄養素です。バランスのよい食事とは、これらの5つを過不足なく摂取することといわれています。

日本人の食料消費割合の変化

農林水産省の食料需給表をみると、昭和から平成にかけての日本における食料消費割合の変化がわかります。以下は全体を100とした場合の、食料消費の割合を示したものです。

・昭和35年(1日の総カロリー 2,291kcal) 米48.3%、畜産物3.7%、油脂類4.6%、小麦10.9%、魚介類3.8%、その他28.7%
・昭和55年(1日の総カロリー 2,561kcal) 米30.1%、畜産物12.0%、油脂類12.5%、小麦12.7%、魚介類5.2%、その他27.5%
・平成16年(1日の総カロリー 2,562kcal) 米23.4%、畜産物、15.4%、油脂類14.2%、小麦12.7%、魚介類5.1%、その他29.2%
・平成22年(1日の総カロリー 2,458kcal) 米23.6%、畜産物15.9%、油脂類13.9%、小麦13.4%、魚介類4.8%、その他28.4%
<出典:農林水産省「食料需給表」>

昭和35年から平成22年までの間、日本人1人1日あたりの総供給カロリーは若干増加しているだけですが、内容は大きく変化し、米の摂取量が減り肉やその加工品、乳製品を含む「畜産物」の比率が大きく増加しました。
たんぱく質、脂質、炭水化物の望ましい比率といわれているのが、13:27:60で、昭和55年の3つのバランスが、たんぱく質13%、脂質25.5%、炭水化物61.5%でしたので、当時はバランスのよい食生活だったことがわかります。
このデータから、昭和50年代には、米、魚、大豆、野菜を中心とした伝統的な食生活に、肉類、牛乳、乳製品、鶏卵、油脂、果物が加わった、多様で栄養バランスのとれた日本型食生活が形成されていたことがうかがわれます。しかし、平成に入ってからは、米の消費量が減る一方で畜産物や油脂の消費量が増加し、栄養バランスの崩れが指摘されています。

病気になりやすい食生活のタイプ

だれにでもいわゆる「食べぐせ」のようなものがあり、「好き嫌いがない」という人でも、あるものを好んで食べたり、決まったものしか食べなかったりしているものです。本来、体によい食べ物と悪い食べ物とに分けられるわけではなく、特定のものを大量に頻繁に食べるなどの、「偏った食べ方」のほうに問題があるといわれます。陥りがちな偏りをあげてみましょう。

炭水化物過多タイプ

白米やパン、うどんやそば、ラーメン、パスタなどの麺類や甘いものを食べすぎて肥満になったり、他の栄養素が不足したりする人です。食べすぎによる肥満は生活習慣病の原因となり、シニア以降の肥満は膝関節や股関節を痛める原因にもなります。

たんぱく質過多タイプ

近年「糖質オフダイエット」が注目され、白米やパンなどの糖質をとらず、その代わりに肉や魚など動物性たんぱく質や、大豆製品などの植物性たんぱく質を大量に食べる人がいます。たんぱく質は体に必要な栄養素ですが、食べすぎることにより他の必要な栄養素の不足を招き、栄養バランスが悪くなります。

脂質過多タイプ

肉の脂身が多いばら肉やまぐろの大トロなどを好む人、スナック菓子など油を使った食品が好きで、サラダにはドレッシングやマヨネーズをたっぷりかける人は、常にカロリーオーバーで肥満につながりやすく、生活習慣病の原因になります。脂質は脂肪が多い肉、乳製品、ナッツなどに多く含まれますが、これらはおいしいため食べすぎには注意が必要です。

塩分過多タイプ

濃い味付けを好み、しょうゆなどの調味料をおかずにかけて食べる、インスタント食品やレトルト食品をよく食べる、ラーメンやそば、うどんの汁を全部飲むなどの習慣がある人は、塩分を過剰にとっている高血圧のリスクが高い人です。昔ながらの日本食にも、塩分の多いものが多く含まれています。

野菜不足タイプ

インスタント食品や外食が多くファストフードが好きで、あまり野菜を食べない人は野菜に多く含まれるビタミン類や食物繊維がとれていないので、肥満や便秘につながります。

日本人の食事で多すぎるものと足りないもの

「日本食はおいしく健康に良い」というイメージがありますが、日本人がとりすぎているものに「塩分」、摂取が足りないものに「食物繊維」が指摘されています。

塩分

日本人の1日あたりの塩分摂取目標量は、成人男性で8g未満、成人女性で7g未満とされています。しかし、世界保健機関(WHO)の基準では塩分摂取量は1日5g以下となっていて、年齢を重ねても血圧が上昇していない地域での1日の食塩摂取量が3~5gといわれていますので、「日本の塩分摂取量は多い」ということになります。
健康診断などで血圧が高いと指摘された人は「塩分を控えるように」という指導を受けるように、塩分の過剰摂取は高血圧の大きな原因です。高血圧が続くと長期的には血管がダメージを受けて脳や心臓、腎臓の病気の原因になります。シニア世代になったら減塩を意識した生活を送ることが、健康寿命を伸ばすことにつながります。
塩分は和食には欠かせない調味料で、漬け物や梅干しには大量の塩が使われています。塩、しょうゆ、みそは日本食をおいしくする調味料のため、多くの日本人は自覚なく塩分過多になっていますので、注意が必要です。
また、意外に塩分が多い食品として、パン、ラーメンやうどんの麺類、ちくわやはんぺんなどの練り製品があります。市販のパンは賞味期限を伸ばすためやパンをふっくらさせるために、多くの塩が使われています。ラーメンやうどんの汁は残すから大丈夫、という人もいますが、スープだけでなく麺そのものにも製造過程で多くの塩分が使われますし、練り製品も粘りを出すための塩分が多く含まれています。
では、減塩するにはどうしたらよいかというと、まず調理の際に塩は計量スプーンで量って使うこと、食卓に塩やしょうゆをおかないことです。特に、テーブルに調味料をおかないことは、簡単ですが非常に効果的です。しょうゆ、みそは減塩タイプも市販されていますので、少しずつ減塩に慣れてゆきましょう。

食物繊維

食物繊維は便秘の予防などの整腸効果があるほか、血糖値の上昇を抑制し、血液中のコレステロールを下げるなどの多くの機能が明らかになっていますが、ほとんどの日本人に不足している食品成分です。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、男性20g以上、女性18g以上の食物繊維を摂取することを目標としていますが、実際には男性15.4g、女性14.7gと4~5g不足しています。シニア層では比較的目標値に近い摂取量の人が多くみられましたが、まだ足りていません。
食物繊維の大きな働きは、小腸での栄養吸収速度を緩やかにして食後の血糖値上昇を抑え、コレステロールを吸収して対外に排出させることや、ナトリウムを排出させる作用で高血圧を予防することです。食物繊維は、シニアになると多くなる生活習慣病の、糖尿病、脂質異常症、高血圧、動脈硬化などの予防に効果があるため、積極的に食事に取り入れたい栄養素です。
食物繊維と聞くと野菜を思い浮かべる人が多いでしょうが、日本人の主食である米にも多く含まれています。白米だけよりも、食物繊維が豊富なもち麦や押し麦などの雑穀や発芽米や玄米を混ぜて炊くとさらに効果的です。

高齢者における食べる機能の衰え

どの年代も、たんぱく質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラルをバランスよくとることは大切なのですが、高齢になるにつれて食べる機能がしだいに衰え、若いころのようになんでも食べられるというわけにはいかなくなります。個人差があるものの、早い人だと60代から、多くの人は70代なかばころから以下のような機能低下がみられます。

味覚の衰え

だんだん味を感じにくくなるため、食事にしょうゆをかけたり、味がうすいと訴えたりします。味覚障害があると食事が楽しくなくなり、食事量の減少にともなう低栄養の心配があります。高齢者の低栄養はフレイル(高齢者の虚弱)の原因になりますので、注意が必要です。

かむ力の衰え

年齢とともに、かたいものや繊維質の多いものが食べづらくなります。歯周病や虫歯、義歯が合わなくなったなどが原因になることがありますので、口腔ケアを怠らないようにします。

飲み込み力の衰え

のどは飲み込むという「嚥下機能」、息をする「呼吸機能」声を出す、「発声機能」を担う大切な器官ですが、年齢とともにのども老化し、飲み込む力が弱くなります。その結果、口のなかから食道に送られるべき食べ物や飲み物が気道に入ってしまう誤嚥を起こすことがあります。

高齢者に必要な調理上の工夫

先にあげた、高齢者が陥りやすい食べる機能の衰えは、ちょっとした工夫で今までのように食事を楽しむことができ、低栄養も防ぐことができます。ポイントとしては、食べやすい形に切ったり調理したりしても、見た目を損なわない工夫をすることです。つまり、おいしそうに見えることがなにより大事です。

味覚を感じにくい人には、だしや薬味、スパイスなどで香りづけをする
食材は一口大の食べやすい大きさに切り、肉の筋などのかみにくい部分は取り除く
肉や魚はミンチ状の肉団子やつみれ、ハンバーグが食べやすい
生野菜はかたいので、ゆでたり蒸したりして加熱してやわらかくする
ぱさつくものは口のなかに張り付くので、片栗粉やコーンスターチでとろみをつける

まとめ

長生きするための食生活というと、なにか特別なことと考える人もいるでしょうが、それほど難しいことではありません。たんぱく質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラルが含まれる食品を過不足なくとることが大切です。なにか特定の食品を食べ続けたり、ダイエットのためだからと糖質や脂質をまったくとらなかったりなどの極端な食事を避け、多くの種類の食品を食べることが推奨されます。
平成12年3月に当時の文部省、厚生省、農林水産省が策定した「食生活指針」は、食事を楽しむ、栄養バランス、無駄のない食生活等、10の視点から望ましい食生活のあり方を示しています。
その食生活指針のなかには「日本の気候・風土に適している米などの穀物を利用しましょう」「地域の産物や旬の素材を使うとともに、行事食を取り入れながら、自然の恵みや四季の変化を楽しみましょう」などの項目もあり、日本は季節ごとに旬の食材が豊富であることが示唆されています。末永く食事を楽しみながら、健康寿命を伸ばしてゆきたいものです。