2020年09月17日更新
各宗派の特徴と基本作法を詳しく解説
皆さんはご自身の宗派についてどのくらい把握していらっしゃいますか?
菩提寺について親に聞いたことはあるけれど、それがどんな宗派でどんな決まり事があるか、知っていらっしゃる方はそう多くはありません。
日本には古くから様々な信仰が生まれては育ってきました。
仏教と一口に言っても、日本における仏教の考え方は宗派によって大きく異なります。
今回は日本でも代表的な宗派や宗教を取り上げて、それぞれの違いを見ていきたいと思います。
ご自身の宗派の決まり事の勉強や、異なる宗派の葬儀に参列する際の参考になさってください。
そもそも「宗派が違う」という言葉を聞いたときに、皆さんどのようなイメージを持たれるでしょうか。
日頃意識していないことなので、いざ聞かれると「何かどこかに違いがあるのだろう」というくらいの心算しかないかもしれません。
確かに現代においては人々と宗教との接点はお葬式くらいしか無くなってしまっています。
しかし、お葬式はいつも急に起こるもの。
いざというときに勝手が分からず、会場で終始落ち着かない気分になってしまった経験がある方も少なくないのではないでしょうか。
実は宗派によっては、お葬式の内容や法事の行い方などに違いがあることがあります。
では、この違いはどこから生まれてくるのでしょう。
それは宗派によって解釈が異なったり、教典が異なっていたりするところから生まれています。
解釈や教典が異なれば、必然的に重要になってくる儀式のやり方やそれぞれの名称も異なってくるということなのです。
今回は日本において主に信仰されている7つの宗派について解説していきます。
日本において最もよく見られる仏教の宗派として
1.天台宗
最澄が比叡山延暦寺を本山として開いた宗派です。
大きな特徴は「他の宗派との違いが少ないこと」です。
どうして天台宗が他の宗派との違いが少ないかというと、その成り立ちに起源があります。
日本における仏教諸派の開祖たちは、この延暦寺で学んだ人々が多いのです。
従って必然的に他との違いが少なくなりました。
お焼香の回数も特に決まりがあるわけではありませんが、一般的な額に押しいただいて3回焼香するという方法で行います。
では天台宗が他と全く違いがないかというと、そうではありません。
念珠が異なります。
天台宗において使われる念珠は、一般的によく使われる「丸型」の数珠がついた念珠ではありません。
楕円形をした「平型」の数珠がついた特徴的な念珠を用います。
この念珠は左手の親指と人差し指にかけて使います。
ご自身のお家が天台宗である方は、念珠選びと掛け方に注意をしましょう。
目立つ念珠なので会場でも一目で天台宗だとわかります。
2.真言宗
空海が金剛峰寺を本山に構え開いたのが真言宗です。
御本尊は大日如来。
宗派としての特徴は「密教」であることです。
あまり聴き慣れない言葉かもしれませんが、密教とは師から弟子へと口伝によって教えが伝えられていく宗教の形態を指します。
つまり広く教えが一般には知らされず、修行を修めたものだけが行う宗教のスタイルなのです。
真言宗は16の宗派を内包していますが、真言宗16宗派それぞれに大きな違いはありません。
式中の特徴として「灌注」と「土砂加持」という儀式が行われます。
「灌注」とは亡くなった方の頭に水を注ぐ儀式です。
お墓に水をかけることを示す意味でもあります。
「土砂加持」とは、土砂の前で護摩を焚き、土砂を清めてそれを亡くなった方にかけることによって祈祷するものです。
お焼香の回数は、「額に押しいただいて3回」と決められています。
天台宗同様、真言宗も数珠の扱い方を重視する宗派です。
真言宗は振分数珠と呼ばれる長い数珠を使用します。
数珠の掛け方は両手の中指にかけて、内側に垂らします。
そのまま合掌させて、数珠を擦り合わせて音を立てるのが特徴です。
3.浄土宗
法然上人によって開かれた浄土宗は鎌倉仏教の一つに数えられ、それまで貴族のものであった仏教を大衆に広めた意味でも大きな役割を果たしています。
浄土宗は次に紹介する浄土真宗とよく似ているので混同されがちです。
大きな違いは浄土真宗が念仏を唱える「気持ちが大切」であるのに対して、浄土宗は「念仏を唱える」ことに重きを置いている点です。
浄土宗は多くの仏教諸派の中でも、戒律が厳しいことで知られます。
食肉と妻帯を禁止し、一年を通して行事がとても多いです。
葬儀では、参列者が導師と共に「南無阿弥陀仏」を唱えます。
お焼香の回数は特に決められていません。
一般的な3回の焼香で良いでしょう。
浄土宗の念珠は、男性用女性用と分けられており、それぞれ「三万浄土」「六万浄土」と呼ばれます。
これは男性は三万回念仏を、女性は六万回念仏を唱えることで極楽往生が叶うというものです。
掛け方は、両手の親指にそれぞれの輪をかけて自分の方に向かって垂らします。
この時数珠は手で挟みません。
浄土宗は主に二派に分かれており、解説をしたのは「鎮西派」と言われる宗派になります。
同じ浄土宗ですが「西山派」は浄土宗であって浄土宗でないと言われるほど、異なる点も多いですので、注意しましょう。
4.浄土真宗
浄土宗からより大衆向けに広がったのが、親鸞の開いた浄土真宗です。
浄土真宗も浄土宗と同じく、他の宗派と異なる決まり事が多い宗派です。
浄土真宗では死者は「亡くなってすぐに極楽浄土へと往生することが出来る」と考えられています。
つまり、死者の冥福を祈る必要がないのです。
その為、他の宗派では当然あるはずのものが、浄土真宗ではありません。
代表的なものをいくつか挙げます。
・「戒名」を付けずに「法名」をつける
・位牌を作らない
・仏壇に故人の写真を入れない
・お盆は行わず、迎え火送り火も行わない
なぜこのように他との違いが大きいかというと、浄土真宗が他の宗派や、個人の介入を好まない傾向が強いからです。
それでは一つ一つ見ていきましょう。
まず戒名をつけないことに関して。
浄土真宗では亡くなってすぐに極楽往生できるという考え方ですので、戒律を受けてその証として受け取る戒名が必要ありません。
式中にも授戒の儀式がないのはこの為です。
その代わりとして「法名」というものと使います。
法名とは故人が生前仏門に帰依していた証として渡されるものです。
従って法名は基本的に故人を悼むものではありません。
そのため、生前に法名をつけるものとされています。
次に位牌を作らないことです。
そもそも位牌は中国の儒教の影響で日本に浸透した風習です。
従って本来の仏教の教えにはないと考えるのが浄土真宗です。
では、浄土真宗のお仏壇には何も置けないかというとそうではありません。
多くの場合では「過去帳」を準備することが多いようです。
また個人の介入を嫌う浄土真宗ですので、お仏壇の中に写真を入れることはしません。
次にお盆ですが、そもそもお盆は亡くなった方の魂が、お盆の時期に帰ってくるという考え方をもとにしています。
これは亡くなってすぐに極楽往生がかなうとされる、浄土宗の教えとは反した考え方です。
従ってお盆も行いません。
ただし、その代わりに「歓喜会」という行事を行います。
歓喜会は主に初盆の時期に行われますが、僧侶を自宅に招いて法話をしてもらう行事です。
葬儀の際には、焼香も額に持って行かないで一回でというのが決まりになっています。
またお香典も注意が必要です。
一般的とされている「御霊前」という書き方は浄土真宗においては好まれません。
「ご仏前」もしくは「お香典」と書くようにしましょう。
水引も通常は黒白のものを使いますが、地域のよっては「黄白」を使うこともあるようです。
5.臨済宗
宗教に特に詳しくなくても、「座禅」を組んで修行を行う「禅宗」についてはご存知の方も多いことでしょう。
臨済宗はその中でも、有名な宗派の一つです。
座禅を組み、身・息・心の調和をとることによって悟りを得られるとしています。
臨済宗は宗派が多く14に分かれています。
また各地にそれぞれの宗派の本山があります。
式中のお焼香は額に押しいただかずに一回がスタンダードな方法です。
複数回入れることは「添え香」と呼ばれ、より丁寧なお焼香とされています。
また「押しいただかずに」とは記載しましたが、押し頂いてもマナー違反になることは、臨済宗の場合はありません。
6.曹洞宗
曹洞宗も臨済宗と並んで「座禅」で修行を行うことで有名な宗派の一つです。
特徴としては式中の行事が多いことが挙げられます。
中でも特等的なのは「御詠歌」が歌われることが多いです。
御詠歌とは仏の教えを和歌の形にして、旋律に乗せて歌われるものです。
お焼香は一度目は額におしいただいて、二度目は押しいただかずに一度目の傍に置くというやり方が一般的とされています。
7.日蓮宗
日蓮宗は日蓮上人が開いた宗派です。
最大の特徴は法華経のお題目を唱えることです。
「南無妙法蓮華経」の7文字を唱え続けることによって、悟りを開くことができるとされているため、葬儀の場面においても参列者が共に南無妙法蓮華経を唱えます。
こうした場面は他の宗派の葬儀においてはあまり見られないため、戸惑うかもしれませんが事前に知っておけば大丈夫です。
また日蓮宗は創価学会と共に話題にされることも多いですが、現在では別の宗教団体として活動しています。
特に創価学会を破門にした日蓮正宗とは、あまり良好な関係ではないお寺も多いので、わざわざ話題にするのは好ましくはないと言えるでしょう。
お焼香はスタンダードな3回焼香です。
宗派ごとの決まり事の裏には、それぞれの宗派ごとの仏典の解釈や重きを置いているポイントがあります。
決まり事をただ「決まり事」というだけで行うのはナンセンスだと言えます。
それぞれの宗派のポイントをよく把握した上で、適切な行動をとりたいですね。
またこれを機会にご自身の宗派について詳しく調べてみてはいかがでしょうか。
ご自身の宗派についてよく知ることで、他の宗派に対する相違点もよく見えてくるはずです。